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17.偽物の首 [銭泡記]



 銭泡が酒を飲みながら道灌の肖像画に熱中していると、今度は竜仙坊が現れた。

 糟屋で別れて以来、行方が分からず、風輪坊も捜し回ったが見つからなかった。

「ほう、機嫌がいいようじゃのう」と突然、竜仙坊は庭から声を掛けて来た。

「竜仙坊殿、一体、どこに行っていたのです」

「ちょっとな」

 竜仙坊は上がらせてもらうぞ、と言うと縁側から上がって来た。

「おう、殿の絵を描いておったのか」

「はい。今日は道灌殿の初七日なので描いてみようと思ったんですが、なかなか、うまくいきませんわ」

「そうか‥‥‥」と竜仙坊は銭泡の描いた絵を手に取って眺めていた。

「何か、分かりましたか」と銭泡は筆を置くと聞いた。

「ああ、分かった。その前に、わしにもそれを一杯くれんか」

「ええ、ちょっと待って下さい」

 銭泡は台所から手頃なお椀を持って来て、竜仙坊に渡した。二人で道灌の絵を肴(さかな)に飲み始めた。

「首の行方が分かった」と竜仙坊は酒を一口、うまそうに飲むと言った。

「えっ、分かりましたか」

 竜仙坊は頷いた。

「一つは古河の長尾伊玄のもとに届いた」

「やはり‥‥‥伊玄じゃったか‥‥‥」

「もう一つは鉢形の管領殿のもとじゃ」

「伊玄と管領殿じゃったのか‥‥‥それで、本物はどちらへ」

 竜仙坊は首を振った。

「は?」

「両方、偽物じゃったわ」

「どういう事です」

「わしにも分からん」

「本物はどこに行ったんじゃ」

 竜仙坊はまた、首を振った。

「ただ言える事は、殿が殺された後、湯殿から逃げた下手人が持っていた首は両方とも偽物だったという事じゃ」

「両方共、偽物‥‥‥という事は、その時、本物はまだ湯殿の中にあったというのですか」

「多分、弥吉の仕業じゃ。弥吉によって、本物はどこかに運ばれたに違いない」

「弥吉か‥‥‥しかし、どこへ」

「古河でも、鉢形でも、糟屋でもない事は確かじゃな」

「というと駿河ですか」

「かもしれん。駿河だとしたら風輪坊のもとへ知らせが来るじゃろう。しかし、弥吉が駿河から来たとは思えんな。弥吉は三年前から、あそこにいる。多分、弥吉は殿の暗殺を命じられて、三年前から、あそこにいたのではあるまい。ただ、扇谷家の情報をどこかに流していたんじゃろう。ところが、急に殿の暗殺の舞台があそことなり、表に現れるようになったんじゃ。そう考えて行くと、駿河の小鹿があそこに弥吉を入れるとは思えん。小鹿にとって扇谷家の様子など探る必要などないからのう。殿を殺すつもりなら江戸を探るじゃろう」

「うむ。確かに、小鹿新五郎が糟屋のお屋形内で道灌殿を殺そうと思って、三年も前から、お屋形内に誰かを入れるなどとは考えられませんな」

「そういう事じゃな」

「二つの首が偽物じゃったとは‥‥‥その二つの首は両方とも古河と鉢形に無事、届けられたのですか」

「無事とは」

「どうして、途中で偽物だと分からなかったのです。本物かどうか調べなかったのですか」

「それはのう。その首が、ちゃんと首桶に入って、塩漬けにされておったからじゃよ。あれだけ厳重にしてあれば、誰でも本物じゃと思うじゃろう。それに、桶から出して、本物かどうか調べて、また、元通りにするのも面倒じゃしの。何よりも殿の顔を見るのが恐ろしかったのかもしれん」

「祟(たた)りですか」

「ああ。戦で勝ち取った首ならともかく、湯殿での非業の死じゃ。殿の霊に取り憑かれるのが恐ろしくて調べられなかったんじゃろう」

「道灌殿の怨霊(おんりょう)ですか‥‥‥」

「殿を殺(や)ったのが何者かは分からんが、そいつは殿の怨霊に取り憑かれて狂い死にするじゃろうな」

「恐ろしい事じゃ」

「話は変わるがのう。曽我兵庫頭の下にいる中道坊じゃが、古河まで首を追って行ったんじゃが、そこで兵庫頭のもとにいた豊島家の浪人というのに会ったらしいの」

「豊島家の浪人が古河に」

「豊島家は長尾伊玄と組んで、殿に刃向かっていたからのう。案外、本物かもしれんな」

「本物でしたか‥‥‥」

「本物だったかもしれんが、中道坊の一味に殺されたらしいわ」

「殺された?」

「ああ。中道坊はその浪人者を殺して、本物の首捜しは諦めて糟屋に帰ったようじゃ。兵庫頭には自分らが殿を殺したと言ってあるしのう。兵庫頭は扇谷家の家宰(かさい)(執事)となり、河越の城代になったというし、いつまでも、殿の首を追ってはいられんのじゃろう」

「糟屋のお屋形様は兵庫頭の配下が道灌殿を殺したと信じておるんじゃろうか」

「信じているようじゃ」

「と言う事は、お屋形様自ら、道灌殿を殺ったと公表するつもりなんじゃろうか」

「いや、公表はせんじゃろうが、お屋形様は管領殿を倒すために、古河の公方様、長尾伊玄と手を結ぶつもりじゃ。殿を殺したと言えば向こうも喜んで手を結ぶ事となろう」

「今まで敵対しておったのに、そんなに簡単に手を結ぶんじゃろうか」

「お互いに相手を利用して自分の勢力を広げようとたくらんでいる。手を結ぶのは時間の問題じゃな」

「相手を信じて手を結ぶのではなくて、利用するために手を結ぶのですか」

「戦なんていうのはそんなもんじゃ。勢力を広げるためにお互いに利用しあっているんじゃよ。お屋形様は管領殿を倒し、自らが管領になろうとしている。伊玄は殿に敗れて領地を失い、古河に居候(いそうろう)しているような状況じゃ。伊玄の本拠地は元々は上野(こうづけ)(群馬県)の白井(しろい)じゃ。白井には管領殿の兄上であられる左馬助(さまのすけ)殿がおられる。本拠地を取り戻すには管領殿と戦わなくてはならん。しかし、今までの状況では以前の戦(いくさ)のように、やたら長引くだけで決着は着かん。そこで、扇谷上杉家と古河公方、長尾伊玄が手を結べば、管領殿を倒せるかもしれんと思うのが当然じゃろう」

「その三つが手を結べば圧倒的に有利になりますのう」

「そうとも言えん。管領殿の後ろには越後の上杉氏が付いている」

「うーむ。難しいのう」

「どう転んでも、一番得をするのは公方様じゃ。公方様は喜んで、お屋形様の誘いに乗る事じゃろう」

「どうしてです」

「扇谷上杉家と山内上杉家が争いを始めれば、どっちが勝っても負けても、上杉家の勢力が弱くなる事は確実じゃ。二つの上杉家を戦わせておいて、弱くなった所で上杉家をつぶせばいいんじゃよ」

「ふーむ。戦とはそういうものなのか‥‥‥道灌殿がいなくなっただけで、太田家が分裂しただけじゃなく、上杉家も分裂してしまったんじゃのう」

「そういう事じゃ。殿がいたお陰で関東の地は、うまくまとまっていたのかもしれん」

「そうなると、今回の道灌殿の暗殺で一番得をする古河の公方様が一番怪しいのう」

「うむ。しかし、公方様は伊玄をうまく使って殿の暗殺を命じた。ところが、伊玄のもとに届いたのは偽首だった。偽首を本物だと信じて運んだからには白じゃな」

「公方様が伊玄とは別に山伏を使ったとは考えられんかのう」

「考えられん事もないが‥‥‥いや、その可能性も充分にあると言えるのう。伊玄の山伏とは別に、公方様も山伏を使っているはずじゃ。公方様なら三年前から糟屋のお屋形内に弥吉を潜入させ、情報を流させるという事も充分に考えられるわ‥‥‥伏見屋殿、公方様がどうやら下手人のようじゃのう」

「公方様が道灌殿を‥‥‥」

「まあ、わしの手の者が古河に残っておるから、本物の首が届けば知らせが来るじゃろう」

「もし、公方様の仕業だとしたら、どうにもならんのう」

「何がじゃ」

「源六郎殿です。源六郎殿は父上の仇(かたき)を取ると言っておりますが、公方様では‥‥‥」

「仇討ちか‥‥‥」

「竜仙坊殿、もし、道灌殿の暗殺を命じたのが公方様だとすると、弥吉とお紺も公方様の配下という事になりますわな」

「じゃろうな」

「そうなると、わしはなぜ、二度も命を狙われたんじゃ。わしはあの時、公方様が殺ったなどとは、これっぽっちも思っておらんかったが」

「そうか、変じゃのう」

「なぜ、わしは命を狙われたんじゃろう。わしはお紺に下手人は伊玄じゃと言った。それで命を狙われたのかと思っておったが、お紺はお屋形様の配下じゃというし」

「ちょっと、待ってくれ。伏見屋殿、どうして、お紺がお屋形様の配下なんじゃ」

「風輪坊殿から聞きませんでしたか」

「いや。奴にはまだ会っておらん。宝珠院にはいなかったが、奴は今、どこにいるんじゃ」

「つい、さっきまで、ここにおりましたが、お城の様子を調べに行きました」

「そうじゃったのか。それで、風輪坊がお紺の事を調べたのか」

「糟屋にいた頃、お紺が会っていたという怪しい商人が分かったのです」

「誰だったんじゃ」

「中道坊の配下で円徳坊という奴です」

「なに、円徳坊か‥‥‥」

「知ってますか」

「ああ、河越で見た事ある‥‥‥奴とお紺がつながっていたのか‥‥‥」

「はい」

「となると、弥吉とお紺は別々に、あのお屋形に入ったという事かのう」

「二人はつながっていないというのですか」

「そうとしか考えられんじゃろう。二人がつながっているとすれば、二人共、中道坊の配下という事じゃ。弥吉が本物の首を手に入れたとすれば、当然、お屋形様のもとに行く。中道坊の奴が、わざわざ、偽首を追って古河まで行く必要もあるまい」

「そうじゃのう‥‥‥そうなると、弥吉とお紺は別々の理由で、わしの命を狙ったという事かのう」

「そうなるのう‥‥‥」

「益々、分からなくなって来たわ」

「うーむ、確かに複雑すぎるわ‥‥‥まず、弥吉の方から考えて見るか‥‥‥弥吉はなぜ、伏見屋殿の命を狙ったかじゃ。伏見屋殿、何かを見たのではないのか」

「見たと言えば、お屋形様と兵庫頭がお茶室で話をしておるのを盗み聞きしておった弥吉の姿をチラッと見ただけじゃが。しかし、あの時は後で調べに行って、お茶室の回りの草がむしられておるのを見て、草むしりをしてたんじゃなと納得しておったんじゃがのう」

「うーむ。伏見屋殿の命を狙うからには余程の事を伏見屋殿に知られたからに違いない。何なんじゃ、そいつは。伏見屋殿、ゆっくりと落ち着いて思い出すんじゃ」

「はい。わしが弥吉の事を初めて、怪しいと思ったのはお茶室の時が最初でした。その時、湯殿の庭で竜仙坊殿と風輪坊殿と会った時の事を思い出し、弥吉が盗み聞きしておったような気がしたんです」

「なに、あの時、弥吉がいたのか」

「はい。わしが木戸から出て行こうとした時、板切れを抱えて立っておりました」

「そうか、あの時の話を聞かれていたのか‥‥‥あの時は、庭の中を調べて塩を見つけた位じゃのう‥‥‥そうか、塩じゃ」

「塩?」

「二つの首が偽物だったという事は、すでに、二つとも首桶に入っていたという事じゃ。となると、あの庭にあった塩は本物の首を塩漬けにした時に使ったものじゃ。本物の首を塩漬けにして、どこにやったかじゃ」

「その塩を見られたから、わしの命を狙ったというのですか」

「そんな事はあるまいのう‥‥‥あの塩と弥吉を結びつけるものは何もない。それから、どうしたんじゃ」

「はい。その後、お紺の用意した夕飯を食べて、弥吉の事が気になったもので、弥吉の住む小屋まで行って、弥吉は留守でしたが別の下男がおりまして‥‥‥」

「それで?」

「‥‥‥」

「どうしたんじゃ」

「越後じゃ」と銭泡は言って竜仙坊を見た。

「なに、越後?」

「はい。小屋におった下男が、弥吉は越後から来たと言ったんです。その事を後で風輪坊殿に言ったんじゃが嘘じゃろうと言われ、わしもそうじゃろうと思い、すっかり、忘れていました。お紺は弥吉の息子が秩父におると言っておったし‥‥‥」

「息子が秩父にいる?」

「はい。お紺はそう言ってました」

「ふむ。お紺はなぜ、そんな事を言ったんじゃろう」

「本当に息子が秩父におるのかもしれません」

「秩父か‥‥‥秩父と言えば長尾伊玄がいた所じゃのう‥‥‥親父が糟屋を探り、息子が伊玄を探っているんじゃろうか‥‥‥」

「そうか‥‥‥親子して、そんな事をしておるのか‥‥‥」

「まあ、息子の事はいい‥‥‥弥吉は越後から来たというのじゃな」

「はい。冬になると、ここは雪が少なくていいと毎年のように言っておったそうです」

「そうか‥‥‥越後から来たというのは、まず間違いないな。初めの頃、弥吉の使命はお屋形内の情報を流す事じゃった。自分の出身が越後だと言ったところで問題はないと思った。ところが急に殿を暗殺する事となって、越後出身がばれてはまずい状況になった。今まで、弥吉を怪しいと思った者はいなかった。弥吉はこれからも、ただの下男として、あそこにいるつもりだったんじゃろう。ところが、伏見屋殿に怪しまれ、越後出身という事もばれてしまった。そこで、伏見屋殿を殺しにかかったんじゃ」

「そうか‥‥‥そうじゃったのか‥‥‥越後じゃったのか‥‥‥」

「そうなると、下手人は越後という事になるのう。伏見屋殿の命を狙ったのが何よりの証拠じゃ」

「越後というと、越後の上杉氏という意味ですか」

「じゃろうな」

「越後の上杉氏が道灌殿を殺した‥‥‥まさか、そんな馬鹿な。あのお屋形様が‥‥‥」

「伏見屋殿は越後のお屋形様を知っているのか」

「はい。二年前でしたか、宗祇(そうぎ)殿たちと一緒にお世話になりました」

「なに、宗祇殿と一緒にか」

「はい。わしが越後の府中に行きましたら、偶然、そこに宗祇殿たちが滞在しておったのです」

「二年前というと宗祇殿はここから越後の方に行かれたんじゃな」

「はい。江戸から関東を回って来たと言っておりました。越後の府中も、この江戸のように京から下向して来たお公家さんが大勢おります。ここと同じように和歌や連歌、茶の湯が盛んです。宗祇殿より道灌殿の話を聞いて、お屋形様も是非、一度、共に連歌会などをやり、語り合いたいものだと言っておりました。そんなお屋形様が道灌殿を殺すなんて、とても考えられませんが‥‥‥」

「しかしのう‥‥‥共に連歌会をやった者同士でも、次の日には敵味方に分かれて戦っているという御時世じゃからのう」

「しかし‥‥‥わしには信じられません‥‥‥なぜなんです」

「管領殿の父上は越後のお屋形様じゃ。息子のために殿を殺したのかもしれんのう」

「息子のために?」

「うむ。殿のお陰で扇谷上杉家が勢力を持ち、管領である山内上杉家を上回る恐れ有りと見て、殿を殺したのかもしれん」

「息子のためですか‥‥‥という事は道灌殿の首は越後へ行ったんじゃろうか」

「うむ。いや、越後までは行かんじゃろう。白井に管領殿の兄上がおられる。白井じゃろうのう」

「上野の白井ですか」

「そうじゃ、白井じゃ。明日、白井に行って調べて来るわ」

「越後の上杉氏か‥‥‥あのお屋形様が下手人だったとは信じたくないのう」

「ようやく、殿の首を取った者が分かったのう。伏見屋殿、ちょっと休ませてくれ。飲み過ぎたわ」

「はあ?」

「つい調子に乗り過ぎた。わしはあまり酒は強くないんじゃ」

「そうなんですか‥‥‥」

 竜仙坊は部屋の隅に横になると鼾(いびき)をかいて眠ってしまった。竜仙坊がこの位の酒で酔い潰れてしまうとはまったく以外な事だった。二升でも三升でも平気で飲めそうな顔をしているくせに、人は見かけによらないものだ。

 弥吉が銭泡の命を狙った理由は分かった。しかし、お紺が銭泡を殺そうとした理由は分からないままだった。

 道灌を殺した本当の下手人も分かった。信じたくはないが越後のお屋形様だろう。竜仙坊の言った通り、息子のために道灌を殺したのかもしれない。関東を旅して越後に来た旅人から、管領である息子の噂より道灌の噂ばかり聞かされれば、親としては面白くないだろう。お屋形様は自分が亡くなった後、息子が道灌に攻め滅ぼされてしまうとでも思ったのだろうか。道灌を直接に知らない者たちは時折、無責任な事を言う。

   関東の地は道灌様で持っている。いっその事、道灌様が管領になればいい‥‥‥

   関東の戦も治まり、平和が来たのも道灌様のお陰じゃ。有り難い事じゃ‥‥‥

 そんな噂は越後まで聞こえて行くだろう。そんな噂を聞かされれば、管領の父親として道灌が許せなくなったのかもしれない。

 道灌を殺した下手人は分かった。しかし、分かったところでどうなるものでもなかった。

 扇谷のお屋形様は自分がやったと信じている。源六郎は曽我の親子の仕業だと思っている。銭泡が本当の下手人は越後の上杉氏だと言ってみても信じてはもらえまい。

 今まで、誰が道灌を殺したのかが重要な事だと思い、竜仙坊らの力を借りて探って来たが、真実を追究した所でどうにもならないという事を銭泡は悟った。

 重要なのは誰が道灌を殺したのか、ではなく、今、道灌がいないという事実だった。

 越後の上杉氏が下手人だったからと言って、扇谷のお屋形様が公方様と手を組む事はやめないだろう。かえって、手を組む可能性は高くなる。源六郎にしても、越後の上杉氏が父親を殺したからと言って、豊後守の下で屈辱に耐えながら、共に管領及び越後上杉氏と戦うとは思えない。

 真実とは一体、何なのだろうか。人はどうして真実を知りたがるのだろうか。

 真実というものが自分に都合のいい場合は人はそれを信じる。都合の悪い場合は嘘だと言って信じない。真実などというものも所詮、虚構に過ぎないのだろうか。

 銭泡には分からなかった。

 銭泡は酔いに任せて筆を執り、紙に向かった。何も考えなかったが、自然と筆が動いたように感じた。

 現れた絵は道灌が笑っている顔だった。十年振りに再会した時、道灌が銭泡を迎えた時の顔だった。その顔は百戦錬磨の武将としての道灌の顔ではなく、友を迎える、ただの人間、道灌の素顔だった。
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